Open Practice

Super Studio Kitakagayaのもつアーティスト・クリエーターの「制作中の姿を見せる」というミッションの一環として、施設内ギャラリーおよびその他共有部にて展示形式の活動紹介を行います。メイン会場となるギャラリーは、展覧会場としての利用だけでなく、制作中の作品のチェックや、ミーティングスペースとしての利用が想定された場所です。2020年6月にSuper Studio Kitakagaya がグランドオープンしてから、コロナ禍の中で広く一般公開を行うことはできなかったものの、当初の予定通り多目的に利用されてきました。今回のオープンスタジオでは、各スタジオの公開に加えて「Open Practice」として、ギャラリーにて展示形式の作品公開も行います。キュレーションは Large Area Bに入居している笹原晃平(アーティスト)が担当し、笹原がこれまで積み上げてきた制作理論をもとに、この数ヶ月の笹原のSSKへの印象や入居者同士の会話を手がかりにしながら、SSKの中に止まらない大きな美術史への接続を、入居者の作品とともに作り上げるものとなります。

結から始まる起承転

Super Studio Kitakagaya(以下:SSK)は、アーティストを支援する破格のシェアアトリエとしてだけはなく「制作中の姿を見せる」ことを一つの特色としている。トントン、 サッサッで始まる朝から、ガーガー、ゴロゴロ夜中まで、、、たしかにここへ来ればいつも誰かが作品をつくっている。制作中の姿を見れるといっても、入居者からしたらどうぞご覧くださいってなもんであとはごゆっくりという感じだ。入居者全員が毎日いるわけではないが誰かしらがいつもそこにいるのは、生活習慣が異なることや、制作の繁閑がまばらであることも理由の一つで、とにかく、このSSKには本当に様々なアーティストが入居している。年齢性別国籍はもちろんバラバラ、活動の方法、表現メディア、制作プロセス、ここまで違うかというくらい十人十色なメンバーがいる。けれども「作品を前にした話法」でその差異と一致は最も顕著になるように思える。

作家が自分の作品を前にして、なにから話し始めるか。もちろん質問にもよるが、その回答の拠り所が、作家の制作態度を決定付けているのではないだろうか。先の2020年9月におこなわれたSSKで初めてのオープンスタジオは時節柄オンライン公開のみとなり、360度動画によるウェブ上でのスタジオ公開に加えて、入居作家インタビューも行われた。SSKを運営するおおさか創造千島財団のスタッフ3名が持ち回りで聞き手となり、各々およそ10分程度、1対1の談話を行った様子をyoutubeに公開した。入居者として、隣人がカメラの前で話している姿をみることは、オープンスタジオという意味合いでの作家紹介以上に、あぁこういうことを思っていたのか、なるほどそういう話し方をするんだぁ、へぇそっちに興味があるとは・・・などと、作品制作を含めた普段の生活習慣や制作態度をなんとなく知っているからこそ、驚きと発見の多いものであった。

さて、今回のオープンスタジオにおけるオープンプラクティスの企画展示「結からはじまる起承転」は、前回のオープンスタジオでのインタビューをきっかけに、入居作家の話法に傾注しつつも、そこから明らかにされる作家同士の差異と一致をSSK内の出来事に留めず、そのヴァリエティな状況を最大限に利用することで、美術史というより大きな枠組みへと飛躍させる試みである。こと美術史においては、画一的な状態を解体する試みが常々行われているが、近年では社会との繋がりから見た美術史、ジェンダーから見た美術史、アウトサイドから見た美術史など、やはりこれまでの一方向的に積層された文脈を相対化することで、見え辛かった/見ることのできなかった側面を明らかにすることが盛んになっている。このような先人たちの態度と偉業を参照にしつつ、ここでは表現手法における時間軸の解体をおこなうことで、これまで比較しずらかった作品の遭逢を促すものである。

具体的には、3週間の展示期間の中で、各週3つのテーマを設定しながら、3回の展示入れ替えをし公開する。各週のテーマは、《起の巻:淵源のテクノロジー》《承の巻:想察のメソドロジー》《転の巻:智覚のナラトロジー》とし、毎回4名〜6名の作家が作品を展示する。おそらく展覧会における最もわかりやすい分類は、絵画展・彫刻展・映像展のような表現メディアでの分類であり、そこに革新的なキュレーションテーマがあれば展示としては強くなるだろう。また20世紀・20XX年代などの分類では表現の潮流を見るだけでなく社会事情とのつながりを見せやすいものとなる。けれども今回はそれらの基礎的な分類を放棄し、あくまでSSK内の作家/作品にみる話法を踏み台にしながら、それぞれの時間軸を美術史上で交錯させる試みを行うものである。これはおそらく、最新の科学技術を用いた表現と、1980年代のCG作品と、16世紀の油絵作品を、同じ話法のものとして扱うような姿勢に他ならない。つまり、その技術が開発され、その技術を扱うことそのものに価値があるという考え方を「起」とし、続いて、その技術を扱うことそのものよりもその技法により何を扱うかという手段になる考え方を「承」とし、最後に、そもそも表現する事そのものを扱う考え方を「転」とする。作家の扱う表現メディアや作品コンセプトでの種別ではなく、作家のインタビューや隣人としての日常の会話から自分自身や作品やコンセプトやメディアといった項目を、『そもそも作品制作上、どのように行き来しているのか』をもとに空間が設えれた展覧会となっているだろう。

入居者のSSKでの制作態度をみると、きっと、アーティストは展覧会があるから作品をつくっているわけではないし、作品制作を巡る興味に終わりはない気がする。なかなか風穴の開かないどんよりした生活で、自分自身の手元と足元をまざまざと見せつけられている時だからこそ、あえて、時節に直接的に反射するのではなく、その手元と足元をもっと間近で見てやろうと思う。そのためにはこの多様性溢れるSSKだからこそできることに取り組み、眼前にある枝葉の美術史の先っぽを手繰り寄せてみる。結から始まる起承転。それはきっと終わり続ける同時代の歴史から何かを汲み取ろうとする行為と等しく、自分が含まれる全ての場所への最大の批評であると同時に、何かを作り続けることの表明であるのかもしれない。

(笹原晃平/本展キュレーター・参加アーティスト)

淵源のテクノロジー

期間: 2021年3月5日(金)~7日(日)
参加作家:稲垣智子、泉拓郎、林勇気、野原万里絵、谷原菜摘子、前田耕平、下寺孝典

テクノロジーから生まれる作品や、その技術を扱うことへ言及する作品をここではメディアアートと定義する。メディアそのものに軸足を置く、もしくは、メディアに言及していく作品をめぐる1週間。

想察のメソドロジー

期間: 2021年3月12日(金)~14日(日)
参加作家:葭村太一、谷原菜摘子、大槻智央、前田耕平、下寺孝典

表現形式の決定が先立つ作品や、アウトプットの固定から起こる技法の探究をファインアートと定義する。モチーフの選択に重きをおくことと、それを実現していくための技法の探究。もっとも純粋とも思えるアートを見る1週間。

智覚のナラトロジー

期間: 2021年3月19日(金)~21日(日)
参加作家:河野愛、トラン・ミン・ドゥック、葭村太一、笹原晃平、稲垣智子、前田耕平、下寺孝典

メディアよりもモチーフよりも、その作品にいたった物語に重きがおかれる作品をコンセプチュアルアートと定義する。伝える方法と、伝える内容、この2つの接続や乖離、そのバランス(アンバランス)をもって表現行為を探求する1週間。